2024.6.14
不定期連載「コラボの原産地」第7回です。
コラボレーション商品を紹介することを口実に作家さん、
アーティストさんのアトリエやご自宅にお邪魔して制作秘話を対談する企画です。
今回インタビューさせていただいたのは、
花とゆめで『多聞くん今どっち!?』を連載中の師走ゆき先生です。
インタビュアーを務めるのはグラニフのコラボレーション担当の中島です。
更にインタビュー後半では、「花とゆめ」の編集を担当されている長谷川彩香さんにもお話を伺っています。
漫画編集さんの多岐に渡るお仕事の内容や、
「花とゆめ」の編集部にお邪魔した様子もレポートしているので、
是非最後までご覧ください。
Table of Contents
〜目次〜
師走ゆき先生にインタビュー!
白泉社の編集担当
長谷川さんにインタビュー!
お仕事と癒しの時間について
『多聞くん今どっち!?』を連載中の師走先生には書面でお話を伺いました。
Q.漫画家を目指したきっかけを教えてください。
師走先生(以下、敬称略) 子供のころから絵を描くのも漫画を読むのも好きだったので、就職活動で自分が改めて何を仕事にしたいか考えたとき、漫画家になるという選択肢が自然と出てきました。ただ、本当になれるかわからなかったので就職活動も並行してやっていました。
Q.漫画家としての夢、目標を伺えますか?
師走楽しく健康に描き続けられたら嬉しいです。
Q.1日の時間の使い方を教えてください。
師走夜型なのでお昼ごろから活動し始めます。計画性は全くなく、お仕事はやる気スイッチが入ったときに一気に進めるようにしています。スイッチが入らなければ、大抵スマホを眺めて時間を無駄にしています。昔は締め切り前に徹夜することもありましたが、最近は無理なのでしっかり寝ています。
Q.癒しの時間の過ごし方はどのようにされていますか?
師走息抜きは大体ゲームです。基本インドアですが、一人旅も好きです。自分が知らない世界を歩くことが癒しです。
Q.担当編集さんとの印象的なエピソードがあれば教えてください。
師走『多聞くん〜』の連載が始まって間もないくらいのころに某アイドルのライブに連れて行ってもらったのですが、ペンライトを振る、うちわを持つなどの体験をそこで初めてさせてもらいました。そのあと「いずれ漫画の資料になるかも」と、2人で観覧車に乗って写真を撮りまくったのですが、いまだに活用できていません。
多聞くんのモデルにした人
Q.なぜアイドルをテーマに描こうと思ったのですか?
師走最初は全然違う設定を考えていたのですが、話し合いの中でアイドル設定はどうかという案が出てきて、長谷川さんがアイドルを推している方なので何とかなるかなと思って描く事に決めました。担当さんが別の方だったらまた違う設定になっていたかもしれないです。
Q.多聞くんを描かれる上でモデルにした人はいますか?また、その方に実際に取材しましたか?
師走日本のアイドル、韓国のアイドル、二次元アイドル、時間が許す限り手あたり次第調べて勉強の日々だったのですが、その中で観たPRODUCE101出身のJO1豆原一成さんに取材でお会いしたことがあります。実際に本物を目の前にすると緊張して何を聞いていいのかわからなくなりました。
Q.うたげちゃんが多聞くんを讃える時の多種多様なフレーズはどのように考えているのですか?
師走オタクが使うフレーズをもじったり、読者さんからいただく多聞くんへの声援を参考にしたり、類語を調べて一般的な言い方とは変えてみたりしています。
Q.先生が特にお気に入りなキャラクターは誰ですか?
師走どのキャラクターも愛着を持って描いていますが、一番描きやすいのは外見も性格もシンプルな桜利です。良くも悪くも真っすぐなので描く方も悩まずに済みます。描いていて一番楽しいのはヤミ原さんです。キモイとかわいいの境目になるように頑張ってます。
師走先生にとっての「花とゆめ」
Q.先生にとっての「花とゆめ」の印象を教えてください。
師走バラエティー豊かでエンタテイメント性に富んだ雑誌だと思います。漫画だけでなく、雑誌全体の企画や付録も面白くて好きです。花とゆめを買い始めたのが中学生の時なのですが、選んだ理由が、恋愛モノだけだと物足りないから、というものでした。
Q.連載前と連載中で印象は変わりましたか?
師走「いろんな作品が載っている雑誌」だからといって「なんでもかんでも載せてくれる雑誌」ではない、という現実を描き手側になって突きつけられました。当たり前ですが(笑)
グラニフの洋服を着てそうな
F/ACEメンバー
Q.今後グラニフと一緒に作ってみたいアイテムはありますか?
師走各キャラクターイメージのモチーフで何か作ってみたいです。ジメ原はキノコ、桜利はゴリラ、倫太郎はかんぴょう巻き、敬人はお金、ナツキはタバコ酒、うたげはオタク語録で(笑)
Q.F/ACEのメンバーにグラニフの洋服を着てもらうとしたら誰が似合いそうですか?
師走一番着てそうなのはナツキだと思います。ファッションの方向性がポップなので。
Q.今回のTシャツのデザインはいかがでしたか?
師走連載第1回目の巻頭カラーということで頑張って描いた絵なのでTシャツ化嬉しいです。ぜひ多聞くんのガールフレンズに着ていただきたいです。
師走先生、貴重なお話をありがとうございました!ナツキくんがグラニフの洋服を着ているところ、いつか見てみたいです。
そしてここからは、「花とゆめ」で編集担当をされている白泉社の長谷川彩香さんにお話を伺いに花とゆめ編集部へお邪魔しました。
漫画編集さんの
幅広ーいお仕事について
中島本日はよろしくお願いします!
長谷川よろしくお願いします。
中島まず初めに編集担当さんのお仕事についてお伺いしたいのですが、長谷川さんの1日のお仕事の流れを教えていただけますか?
長谷川出社してからメールを確認して、その後は日によって変わります。作家さんからいただくネームやプロットを確認したり、原稿が届いていたらその校了作業をしたり、次の話の打合せのお電話をかけたり。雑誌とかアプリとか何かしらの校了がほぼ毎日あるので、その締切に向けて仕事をしています。あとはコミックス発売に向けた作業や、今だとコラボカフェの監修、まんが賞の審査、担当作のSNS管理もしています。
中島お忙しいですね!校了作業というのは具体的にどんなものですか?
長谷川大まかに言うと頂いた原稿を雑誌に載せるための形にする作業です。作家さんから頂いた下絵というものに漫画のセリフが入っているので、それをどの大きさでどの書体で打つのかこちらで指定し、作家さんに頂いたセリフが入っていない原稿と合わせて、ゲラというものを出します。あとは雑誌だとセリフ以外にもあらすじや広告が入ったりするのでその指定もこちらでやっています。他にも、扉絵のデザインは私の方で組んでいます。例えば作品のタイトルとか作家名を入れるのは編集担当の役割になるんです。
中島すごいですね。セリフのフォント指定というのは大事なセリフを大きめにしたりとかですか?
長谷川そうですね、私は気持ちよく読める大きさっていうのを結構意識しています。吹き出しいっぱいいっぱいでも読みにくいし、小さすぎてももちろん読みにくいので、自分的に一番ハマる大きさというのは意識してるのと、あとは楽しいところは楽しそうな書体とか、大事なとこは太字とか、かっこいい決めゼリフはちょっと雅なフォントにしたり、いろいろ工夫しています。
中島編集さんのお仕事ってすごく幅広いんですね。普段はどういったスケジュールで過ごしていらっしゃるのですか?
長谷川私は大体10時半~11時ぐらいに出社して、ここ数か月はもう18時~19時には退勤しています。夜遅い時間しか打ち合わせできない作家さんもいるので、残りは在宅勤務にして、家に帰ってから21時〜23時ぐらいに電話で打ち合わせをしています。
中島やっぱり作家さんとのお仕事は遅い時間帯になるんですね。
長谷川そうですね、日中はお仕事をしていたりそもそも夜型だったり、遅くから活動される方が多いです。なので私以外の編集部員は会社に残って遅い時間までやっていると思います。私は家が遠いこともあって、結構早く帰っています。
中島私達もイラストレーターさんや画家さんと直接お話する機会があると、23時ぐらいから動き出すみたいな感じの方も多いです(笑)
長谷川そうなんですよね。
中島あと作家さんは締め切り前が特に忙しいというイメージがありますが、やっぱり締め切りの時は「先生そろそろ・・・」とお声がけするようなこともあるんですか?
長谷川締め切りが本当に危ない時は電話して、原稿ができたら少しずつ送ってもらうみたいなことはあります。
<取材メモ>
担当作品の付録を考えるのも編集さんのお仕事のひとつ。企画やデザイン、発注まで全てを管理しているそうです。編集さんのお仕事って本当に幅広い!
『多聞くん〜』の原点はあの紙袋
中島作家さんとはどのくらいの頻度で会われるんですか?
長谷川遠方に住んでいらっしゃる師走さんの場合は年数回という感じですね。東京にいらっしゃるタイミングがちょくちょくあって、それこそコラボカフェとかF/ACE展とか、あとはイベントやライブにも行かれるので、東京にいらっしゃる機会があったらお会いするという感じです。
中島ライブに行かれるってことは、先生ご自身がアイドルを好きだったんですか?
長谷川いえ、アイドルに関してはほとんど知らないくらいでした。
中島では、長谷川さんと取材としてライブに行かれたりするんですか?
長谷川そうですね、1回私が応援しているアイドルのライブに一緒に来ていただきました(笑)『多聞くん今どっち!?』を描き始めてからは結構アイドルを見られています。初めは大変だったと思うのですが、今ではどんどん詳しくなられていてすごいなぁと思っています。
中島『多聞くん〜』の企画時は長谷川さんから「アイドルはどうですか?」って提案されたんですか?
長谷川アイドルの設定は師走さんと二人で話していて決まりました。『多聞くん〜』ってもともとは紙袋をかぶったストーカーのお話だったんです。ただ、その紙袋を取った時に、中の人間がよほど嬉しい人間じゃないと少女漫画として読者さんは嬉しくないだろうっていう話になって、じゃあ紙袋を取った中身がアイドルだったらどうだろうかっていう話になりました。それから打合せを進めていく中で「紙袋いらなくない?」ってなって…(笑) 今のお話になったという流れです。
中島あ!多聞くんがうたげちゃんと外でデートするときに紙袋をかぶってますね!
長谷川そうですね!たぶん名残というか、そこが1番初めに描きたかった部分だと思います。
中島あの紙袋は最初のこだわりだったんですね。そうしたストーリー設定とか、案出しをされる時に編集担当として長谷川さんが参考にしていらっしゃるものはありますか?
長谷川そもそも私の方からお話作りに関してゼロ→イチで提案することはあまりなくて、作家さんが考えた設定に対して「もっとこうした方が面白いんじゃないか」みたいなプラスαのご提案をするイメージです。提案のアイディアの元は、例えば他の少女漫画雑誌を参考にすると既視感が出てしまうので、もっと別のジャンルのものから取り入れるようにしています。映画やドラマだったり、面白いCMや広告とか、あとはTikTokとか、今流行ってるものや若い子が見たいものを結構広く見るようにしていますね。
中島先程の多忙なスケジュールのどこに詰め込める時間があるんだろうって不思議です。
長谷川通勤時間とかに見たりとか、ご飯食べながら見たりしちゃうタイプです。
中島見ながら「ここ使えそうだな」と思ったり、発見があるんですか?
長谷川そうですね。自分の趣味じゃなくても、人気のドラマやヒットしている作品があったら、何でヒットしているんだろうと考えながら見るようにしています。
中島分析しながら見ているんですね。花とゆめの読者さんは実際おいくつぐらいなんですか?
長谷川想定してるのは中高生の読者さんなんですけど、20代・30代・40代、それ以上の方も幅広く読んでくださっています。ただ、花ゆめの作品作りとしてはやはり中高生が楽しめるものを作って、その作品を上の世代の方も面白いと思って手に取ってくれるっていうのが理想の形なので、あくまで中高生を中心に楽しめる深いお話作りをしています。なので主人公は高校生が多いです。
中島そうなんですね。私も『多聞くん〜』をドキドキしながら読んでいます。全然女子高生じゃないのに(笑)
長谷川それが一番理想なのでありがたいです。
中島うたげちゃんにとって多聞くんは年上じゃないですか。私にとっては本来多聞くんは年下なのに、作品を読んでいると、うたげちゃんと同じように年上を見る気持ちで読んじゃいます。
長谷川私もです!それは上手くいっている証拠なので嬉しいです。
中島私もアイドルオタクなのでうたげちゃんに共感しまくりです。細かいところなんですけど、多聞くんがお兄ちゃんのことを「大ちゃん」って呼んでいるのをうたげちゃんが噛み締めてるシーンを見て「わかる!」と花ゆめを読みながら激しく頷いていました(笑) ああいう何気ないあだ名呼びに盛り上がるところとか、本当にオタクへの解像度が高いですよね。
長谷川ありがとうございます、嬉しいです。先生に伝えておきます。
中島でも自分があんなハウスキーパーになったら絶対に匂わせをしちゃうと思います(笑)
長谷川正直私もそうなると思います(笑) うたげちゃんはよく頑張ってるなあって。
中島オタクの鑑ですよね!
中島今ってSNSがあったり、『多聞くん〜』の中でもナツキくんがメンズメイクをしていたりするじゃないですか。そういう時代を反映した流行の移り変りについては意識されていますか?
長谷川師走さんはだいぶ意識して描かれています。例えば『超無敵クラス』というテレビ番組を見ていらっしゃったりとか。私が「こんな番組がありますよ」と紹介したのですが、私よりもしっかり毎週見てくださっていて、そこから気になった要素を色々取り入れてくださっているという感じがします。
中島長谷川さんがいいなと思ったら、直接該当するシーンがあったり、探している資料ではなくても先生にもオススメすることがあるのですね。
長谷川そうですね。逆のパターンもあって、お互いにオススメしあっています。
中島現役アイドルの情報も、「今これが熱いよ!」みたいな話をされるんですか?作品を拝見しているとオーディション番組の要素もあったりしますよね。
長谷川めっちゃします!例えば原稿が終わった次の話の打合せの時は、半分くらいが次のお話の展開で、もう半分はアイドルの話が多いです。オーディション番組についても、私も師走さんも一視聴者として楽しみながら見つつも、「私たちはなぜこの子を応援したくなるのか」「ファンはどういう気持ちで応援しているんだろうか?」みたいな話で盛り上がっています。
中島やはりお仕事目線になるのですね。多聞くんは具体的に誰かをモデルにしているんですか?
長谷川この人っていうモデルはいないですね。師走さんが当時資料集めの一環で見ていていいなと思ったアイドル達からそれぞれの要素をちょっとずつ取っていったという感じです。多聞くんのキャラは元々描きたかったキャラらしいので、これといったモデルはいないんです。
中島先程仰っていた、元々描きたかったキャラクターにアイドルの要素を足したということですね。
長谷川そうです。紙袋をかぶっちゃうくらいのジメジメ系というイメージですね。
中島ジメジメを描きたいと思ったのは、流行とかではなく師走先生が好きで描きたいという想いからなのですか?
長谷川そうです。師走さんの前作『高嶺と花』の主人公がすごく高慢なお金持ちだったので、その真逆のキャラを描きたいと仰っていて、そこから出たキャラだと思います。
中島確かに高嶺さんとは真逆ですね(笑) うたげちゃんはどの界隈のアイドルオタクをイメージしているんですか?
長谷川このジャンルのこのオタクが近いよねっていうのは特にないです。ただ、ジャンルに関わらず面白いオタクを見つけたら師走さんと共有し合うみたいなのがあって(笑)「すごいオタクを見つけました!」ってお話ししたりしています。結構SNSの情報が参考になっていますね。
中島『多聞くん〜』に出てくるワードセンスが絶妙だなって思うのは、やっぱりそういうSNSの影響もあるのでしょうか?
長谷川どうなんでしょうね。既にオタクから出たものを漫画に描いても面白くないから、師走さんがもう1〜2段階上の面白いオタクをめっちゃ捻り出してくださっています。師走さんの力が大きいと思います。
中島読んでいて毎回パンチラインがいっぱい出てくるので、ワードセンスに驚かされています。
長谷川私も憧れなんです。すごいですよね。
中島『高嶺と花』の時も会話劇のインパクトがすごいというイメージだったのですが、今作でさらにパワーアップしていますよね。
長谷川そうですね、師走さんが持っているワードセンスとアイドルオタクという設定が相性良かったのかなって師走さんご本人も仰ってました。
待望のアニメ化決定!
中島色々なメディアで取り上げられていたり、どんどん作品の注目度が高まっていますが、今後どのような展開にしていきたいと考えていますか?私含め、アニメ化を熱望している読者も多いですよね。
長谷川実は6月12日にアニメ化が発表されるんです。(※取材時は発表前)
中島えー!そうなんですか!
長谷川放送自体はまだ先なんですけど、F/ACEのアーティスト活動やMVも出す予定なので、読者さんがうたげちゃんと一緒に多聞くんやF/ACEを推しているような気持ちになれる作品になると思います。もちろん原作の面白さもどんどん増していくと思うので、両方で盛り上げていきたいです!
中島アニメということは、歌って踊る多聞くんの姿が動画で見られるってことですか?
長谷川はい!楽曲も力を入れて作ってくださっているので楽しみにしていただけたらと思います。
中島楽しみです!長谷川さんもますます忙しくなりますね(笑)
長谷川そうなんです(笑)このインタビューの後にアニメの脚本会議も入っています。
中島声優さんのオーディションとか楽曲制作にも立ち会われるのですか?
長谷川はい、基本的に全て監修します。大変だけど楽しいです。音楽に関しては素人なのでわからない部分もあるのですが、歌詞や歌い分け、F/ACEというグループのイメージのあたりでコメントさせてもらっています。
中島そういうお仕事をしていると、自分の趣味にも影響してくるものですか?エンタメを見ている時に仕事のことが頭の中によぎったりするのでしょうか。
長谷川多少はありますね。この作品を担当するまでは自分の好きなものだけを見るって感じだったのが、結構幅広く、それこそオーディション番組を見たり、この仕事をやっていなかったら見ていなかったかもって思うところにも目を広げるようになりました。そうしていたらミーハーに生きるのって楽しいなって気づいたり、色々なグループのファンの違いが見られたり、勉強になっています。
中島今回のアニメ化のように、メディアミックスとか商品化を見越した作品づくりというのは最初から意識されているのですか?
長谷川私はそこまではしていないです。メディア化する時に引っ掛かりそうな要素はできるだけ連載が始まる前に考え直すこともあるのですが、基本的に読者さんには何が受け入れられるのか全然わからないですし、メディア化を目指して作ろうってやりすぎるとその狙いが透けて見えてしまってあまり受け入れられないと思うので、企画段階では意識しないです。面白い作品を作ってお声がけを待つ、という感じです。
中島あくまでも面白い漫画を作る、というのが第一なんですね。
担当作家さんとの素敵な関係
中島担当作家さんとお仕事をされる中で、どういう時に一緒に作品を作り上げているなと実感しますか?
長谷川作家さんが描かれた素晴らしい作品をどうやったら広められるか考えている時ですかね。やっぱり雑誌の付録とかコミックスを毎巻どうやって販売するのか…というのは結構考えています。コミックスの帯で応募できるプレゼントキャンペーンやSNS施策とかは編集側がメインで企画しているのですが、作家さんが描いてくださった良い作品をどうにか一人でも多くの人に届けたいという気持ちで考えています。
中島そういう熱い気持ちによって、「このマンガがすごい!2023」へのランクインなどに繋がっているんですね。
長谷川そうですね。「このマンガがすごい!2023」では担当作品の『多聞くん〜』も『春の嵐とモンスター(ミユキ蜜蜂先生)』もどちらもランクインしたんですけど、あれはもう本当に念願というか、普段少女まんがを読まない方の目に留まる可能性が高い賞ということで、W入賞はずっと狙っていたので嬉しかったです。
ファンの方々がかなり頑張ってくださったおかげで2作品ともランクインできました。
中島推し活みたいですね!
長谷川そうですね、「私達の多聞くんを!」とか「大好きな春モンを入れるぞ!」っていう気持ちがこっちまで伝わってきて、作家さんたちも喜んでくださったと思います。
中島今「花とゆめ」本誌の連載作家さんをお二人担当していらっしゃいますが、それぞれの作家さんで接し方など気をつけているところの違いはありますか?
長谷川お二人ともとても優しくて穏やかで大好きなんですけど、割とタイプは違うと思います。例えばネームの作り方は、師走さんはとりあえず全部書いてから「この辺がちょっと違うかも?」と思ってもひとまず見せてくださることが多いです。ミユキさんは一気にできる時もあれば数ページずつ出来ていく時もあって、そういう時は「とりあえず〇ページまでです」と送ってくださいます。そういった違いはあるので、作家さんのやりやすい方法に合わせていくというイメージです。
中島作家さんそれぞれに独自の進め方があるのですね。作家さんの方からアドバイスを求められることもありますか?
長谷川アドバイス…ミユキさんからは「この後はAとBのどっちがいいと思いますか?」って聞かれることがあり、決めさせていただいたりします。特にアドバイスを求められなくても、このシーンをもっと見たいとか、この要素を入れてほしいというリクエストは毎回しています。
中島きっとアドバイスしたシーンの反応が良かった時とか嬉しいですよね。
長谷川そうですね。ただ、「あくまで作家さんが描いた作品」という気持ちはずっと持っています。例えばミユキさんの「AかBか」問題も、どちらを選んでも面白くなるという信頼はある上で、やっぱり自分のアイディアや意見が反映された素晴らしいものが出てくるとすごく感動します。
<取材メモ>
先生からネームが届いた時は、デスクで一人読みながらドキドキしているとのこと。うらやましいです!
中島編集担当をされていて、「作家さんから言われて嬉しかった言葉」はありますか?
長谷川人事異動がある季節に「長谷川さんが担当じゃないと描けないです」って言われたのが嬉しかったです。
中島それは嬉しいですね。そういう人事異動は花ゆめの編集部内だけであるのですか?それとも部署そのものから変わるのですか?
長谷川部署間の異動ですね。誰かしら花ゆめに入って誰かしら抜ける…みたいなことが多くて、その異動があった時は編集部内で担当作家さんをシャッフルするみたいな感じです。連載作家さんはそんな頻繁には動かないのですが、私は入社してからずっと今のお二人を担当させていただいていて、今5年目なのでそろそろ動くかなと思ったり…(笑)以前作家さんに「もし長谷川さんが別の部署に行ったら社長に抗議の電話します」って言ってもらえたのがすごい嬉しかったです(笑)
中島実際に作家さんが絶対に長谷川さんじゃなきゃ無理、っておっしゃったら会社として考えてくれたりするものなんですか?
長谷川いや~どうなんでしょう。「もう決まったことだから」とか言われそうな感じがします(笑)
中島他の方に引き継ぐのもちょっと惜しいというか、そういう気持ちもありますよね。
長谷川会社員なのである程度は仕方ない…という気持ちもありますが、正直めちゃくちゃ悔しいですね。最後まで見届けたいって本当に思います。
中島ここまでお話を伺っただけでも、多聞くんの担当を長谷川さん以外の別の方がやられるイメージが湧かないです。
長谷川どうでしょう、でも出来る限り私が担当したいなとは思います。
中島編集さん同士で担当してる作家さんが違うとライバル意識ってあるものですか?
長谷川えー、どうなんでしょう。入社した時は一番下だったので、先輩に負けないように頑張って着いていかなくちゃ、みたいな気持ちはありました。ただ、ギスギスというよりかは編集部員同士で良いところを盗み合うみたいな感じで、あんまり「あの人に勝つぞ」という気持ちはないかもしれないです。先輩でも後輩でも、自分がすごいと思ったら参考にしていますね。
中島先輩や後輩の方を見てどういうところで「良いな」と思うものですか?
長谷川編集部ではみんな電話で打合せをするので、一番はその打合せの仕方ですね。最初は先輩のアドバイスの仕方とかを聞いて、こういう表現があるのかって学んでいました。あとは、ネーム選考で他の担当編集が出してきた新人さんのネームを見ると、これはたぶん編集がうまくリードしたんだなっていうのがなんとなくわかるので、そういうのを参考にしてます。
中島こっちの話の筋の方が面白くなるだろうな、というのを編集さんがアドバイスしているんですね。
長谷川そうですね。作家さんが描きたかったものと、読者受けが良いものがうまくミックスされているなって感じるものはやっぱり良いなって思います。
中島作品を読むだけでそれがわかるというのは編集さんならではの能力ですね!
「花とゆめ」は普通じゃない
中島長谷川さんは昔から花ゆめを読んでらっしゃったんですか?
長谷川中高生くらいまではどちらというとマーガレットとか別マを読んでいて、その後花ゆめに行ったという感じです。花ゆめを初めて読んだ時に「なんだこれ、面白すぎるな」と思って(笑)どの作品も緩急が激しくてカルチャーショックを受けたというか…。それからめっちゃ好きですね!
中島影響を受けた作品はありますか?
長谷川この回答、絶対担当作だからだろと言われると思うのですが(笑)これは本当に『高嶺と花』と『なまいきざかり。』がめちゃめちゃ好きでした。花ゆめは現代ラブコメでも他のラブコメに比べてすごいコメディが強いんですよね。ギャグがちゃんと面白いなって思えて、それが花ゆめを好きなった理由なんです。高嶺さんと花ちゃんのやり取りとか、由希の成瀬のあしらい方とか…。花ゆめってファンタジーなイメージが強いと思うんですけど、結構私の中ではコメディが強い!っていう印象があって、そういった意味での影響はこれらの作品から受けていますね。
中島わかります!花ゆめ作品ってラブストーリーだけでは終わらないというか、コメディとしてもしっかり面白いものが多いですよね。
入社される前と後で花ゆめのイメージは変わりましたか?
長谷川そうですね。自由な雑誌なんだろうなと思っていましたが想像より遥かに自由でした(笑) 少女漫画雑誌では珍しいBLとか骨太ファンタジーとか、花ゆめだから載っているんだろうなっていう作品が結構あります。今度私の担当している新人作家さんの穂嶺灯さんが『ある殺し屋の閑話』という殺し屋が出てくる話を連載しているんですけど、それがファッション的な殺し屋じゃなくて結構ガチな感じなんです。1話目には恋愛要素なんて全くなくて(笑)「大丈夫かな?」と思いつつも「いや、それでもこれはとても面白い!」と思って自信を持って出したら、ネーム選考を通過して掲載が決まりました。そういう懐の広さはすごくありがたいですし、やっていて楽しいですね。
中島ある意味すごく時代に合っているというか、多様性を象徴するような雑誌なんですね。
長谷川そうですね。もちろん売れ筋も意識はしていますが、今一番受けているジャンル以外でも試してみようっていう度量があるのが良いところかなと思います。
中島幅の広さはレジェンド作品からも感じられますよね。『ガラスの仮面』にしろ、『ぼくの地球を守って』にしろ、いわゆる少女漫画という枠を超えた強めの演劇要素やSF要素があったり、『しゃにむにGO』は少年漫画のようなスポーツ要素があったし、それまで「少女漫画ってこういう枠だよな」と思われていたところを、その枠を飛び越える作品も掲載されて人気になるのが花ゆめ、っていうイメージはありますね。
長谷川そうですね。そこの良さを守っていきたいという思いはあります。
中島あとは、例えば最近で言うと『春の嵐とモンスター』でもちょっと強めのイチャイチャがあったりしますけど、学生の頃にそういう作品を見て「花ゆめって大人な漫画雑誌なんだ」って思った印象があります。こんなの読んでいいんだ!みたいな(笑)
長谷川うんうん、確かにそういう軸でも自由かもしれないですね。
中島先程お話しされていた殺し屋の作品は連載ですか?
長谷川そうです。集中連載になります。
中島ネーム選考会議の様子ってどんな感じなんですか?
長谷川増刊号の読み切りとかは編集部全体で読んで、意見を言い合うという感じです。いろんな人の意見を聞けるという意味ではすごい勉強になる場ですね。後輩が先輩の担当作品に対して厳しい意見を言ったりすることもあるんですけど、そういう点でもすごく良い意味で高め合っている気がしています。
中島切磋琢磨し合っている雰囲気が伝わってきてかっこいいです。漫画やドラマで見たイメージなのですが、封筒に原稿が入っていてみんなで回覧するやつですよね?
長谷川昔はそうだったと思うんですけど、今はオンラインで回覧しています。
中島そうなんですね。例えば長谷川さんが担当されている作品を出す時には、推しポイントを書いて回したりするのですか?
長谷川いやそれができなくて。作品に全て込めるというか、作品の面白さで勝負、という感じなので、編集から余計なお力添えはできないんです。
中島えーそうなんですね!じゃあもう会議の前に作家さんといっぱい詰めて、よしこれで持って行くぞ、みたいな感じですか?
長谷川本当にそんな感じです。特に選考前はめちゃくちゃ作家さんと二人三脚で詰めています。
中島連載決定の難易度としては、まだ連載経験がない新人の方と、過去に連載をやられていた方の新連載で変わらないものですか?
長谷川恐らくですが、作家さんの実績ごとに期待値が変わってくるので微妙な差はあると思います。師走さんとミユキさんの場合は前作でヒットを出しているので、もうめちゃめちゃハードルも高くて本当に胃が痛かったんですよ。売れたらそれはもちろん作家さんのおかげだけど、売れなかったら自分のせいだ…って勝手にナイーブになっていました(笑)入社2年目くらいの時はずっと胃痛がしてるみたいな感じでした。
中島すでに売れっ子の先生だとそれはそれでプレッシャーだし、っていうのがあるんですね。
長谷川そうですね。2連続ヒットはなかなか難しいことだと先輩方から口酸っぱく言われていたのもあって、本当に胃を痛めていました(笑)
中島その結果、今とても人気の作品になっていてすごいですよね。
長谷川ありがたいです…本当に良かったです。私もやっと肩の力が抜けましたが、もっと多くの人に読んでもらえるよう頑張りたいです。
<取材メモ>
白泉社のビルの入口にずらりとディスプレイされたレジェンド作品達の中にひとつだけ空白が。
「RESERVED FOR YOU (次はあなたの作品を)」という粋な仕掛けに感動しました。
中島長谷川さんは就職活動の時から漫画編集部志望だったのですか?
長谷川そうですね。少女漫画編集は小学生のころからの夢でした。本当に就職活動としては全然オススメしないやり方なんですけど、私は絶対に少女漫画の編集をやりたかったので、少女漫画の編集ができる出版社だけ受けていました。出版社はただでさえ狭き門なのに、少女漫画に絞るともっと少なくて…就活はもう二度とやりたくないってくらい大変でした。いまだに夢に見ます。
中島ちなみに、他の出版社さんの選考も進んでいたんですか?
長谷川紙の出版社で内定をいただけたのは白泉社だけでした。他の出版社の最終選考で落ちちゃって、シュン…ってしてる時に白泉社の面接が始まったんです。白泉社は志望度的に言うとトップだったのですが、他社に比べて選考時期が遅かったので、これで落ちたら本当の本当に終わりだ、みたいな気持ちで挑んでいました。
中島そうなんですね。やっぱり就活の際の履歴書でも、キャッチコピーとかパンチラインって大事になってくるのでしょうか?
長谷川そうだと思います。私の話ですが、どこまで真面目じゃない文章を真面目っぽく書けるかが大事かな、と思っていました。きっとこういうエンタメを作る会社の人って普段から面白い漫画を読んでいるのであまり真面目すぎる固い文章を読みたくないだろうなと思って、できるだけ面白く書くようにしていました。砕けた文章で書くと不真面目に見えてしまうから、真面目な文章で面白いことを言う…というのを意識してやっていました。
中島それは今の編集のお仕事でも活きていますよね。
長谷川活きていると思います。煽り文とかが面白いって言ってもらえると嬉しいです。
中島確かに『多聞くん〜』のようにワードセンスが大事な作品の煽り文は特にハードルが高いですよね。
長谷川あんなに面白い作品で煽りが硬かったら台無しなので、頑張るぞって思っています。
中島煽り文を考える際に工夫しているポイントはありますか?
長谷川私は学生時代に創作のゼミにいて、そこで小説とか短歌を作っていたので、その時に学んだ語呂の良さとか文字数とか、あとは口に出した時の気持ち良さも意識しています。同じことを言うにしても類語を調べて、表現としてこっちの方が面白いなっていうものを見つけては意識的に変えています。
中島すごいですね。確かに短歌とかは文字数制限がある中で言いたいことをどう伝えるかというところで煽り文と似た要素もある気がします。
長谷川短歌の経験はだいぶ活きているかなって思います。
中島お話を聞いていて改めて思いますけど、編集さんってすごく憧れのポジションですよね。すでに仕事をしている私達から見ても憧れですし、就活している学生さんや読者の皆さんからもそうだと思うので、編集という仕事をしていてプレッシャーみたいなものを感じることもあるのですか?
長谷川期待を感じることはすごくあります。特にXなどSNSをやっていると、何か面白いことをやってくれるだろうって思われているなと感じることはあるので、頑張ろうという後押しになっていますね。
中島付録だったり、ボイスドラマもすごい練られていますし、そこのハードルはやっぱり高くなるのですね。
長谷川良い意味で「なんだこれ」って言わせてやろうっていう気持ちでいつもやっているので(笑) そうやって工夫したものに対しての反応が良いと嬉しいですね。
<取材メモ>
長谷川さんが考えたこの付録ポスターは、多聞くんと憧れのハイタッチができるデザイン。発想が天才!
中島もハイタッチに挑戦しました!
中島今もすごく活躍されていますが、長谷川さんの夢や目標を伺えますか?
長谷川入社した時の夢は立ち上げ作品をアニメ化して多くの人に読んでもらえること…と思っていました。あとは長期的な目標になるのですが、私は漫画雑誌っていうものがすごく好きなので、花とゆめがこれから何十年も続いていくように力添えできれば良いなと思います。
中島今回のアニメ化で夢が一つ叶ったんですね!これからのご活躍も楽しみにしています!
初めての多聞くんTシャツ!
中島今回の花とゆめ50周年記念Tシャツのラインナップについて感想を聞かせてください。
長谷川作品によって全然雰囲気が違うんだなと思って、まだ画面上でしか見ていないので実際にTシャツになったらどんな感じなのか実物を見るのが楽しみです!
中島多聞くんのTシャツが発売されるのは今回が初めてですか?
長谷川過去に発売したことはあるんですけど、その時はうたげちゃんが着てたF/ACEのロゴTシャツだったので、こんな風に師走さんの絵がドンと載っているのは新鮮です。
中島推し活などで着たい、楽しいTシャツになると思います!
中島今回お話を伺って、全然違うジャンルではありますが、私達グラニフが作る洋服や雑貨の中でもグラニフっぽさを期待されているところがあったり、コラボさせていただくイラストレーターさんとは二人三脚な部分があったり、お仕事がシンクロする部分があったのでずっとお話を聞いていたいなって思いました。今回のお話を伺って私達の仕事としても学ぶべきところが沢山ありました。とっても面白いお話をありがとうございました!
長谷川ありがとうございました!
Profile
師走 ゆき
福岡県出身。2009年に白泉社アテナ新人大賞を受賞して、以降花とゆめ(白泉社)で活躍中。「高嶺と花」は2019年にドラマ化。現在連載中の「多聞くん今どっち!?」はテレビアニメ化が決定している。
長谷川 彩香
株式会社白泉社 花とゆめ編集部所属。
現在連載中の『多聞くん今どっち!?』(師走ゆき)、『春の嵐とモンスター』(ミユキ蜜蜂)の編集担当。
プロダクトディビジョン ライセンスセクション
中島 華加
グラニフのコラボレーション担当者。漫画、アニメ、絵本など幅広いジャンルのコラボ商品の企画進行から商品リリースまでを進行。趣味はアイドル鑑賞、映画観賞、美味しいご飯を食べること。
作品のご紹介
多聞くん今どっち!?
木下うたげは大人気アイドル・F/ACE(フェイス)の福原多聞くんを推している高校生。
ある日バイトで向かった先が、なんと多聞くんの家だった!
しかも、多聞くんの本性はセクシー&ワイルドなアイドル姿とは真逆の、ジメジメ陰キャで…?
「多聞君は神!!」 「復唱して下さい」
どんな姿であれ、多聞くんは多聞くん。
自己肯定感が低い彼を、全力でサポートすることに!
しかし、ジメジメの多聞くんにもきゅんとしてしまい…?
オンオフ激しめ×新しすぎる推し活ラブコメ、開幕!
文責:中島華加 / 写真:泉大悟