2024.8.16

不定期連載「コラボの原産地」第11回です。

コラボレーション商品を紹介することを口実に、
作家さんやアーティストさんと制作秘話を対談する企画です。

今回のコラボレーションは、この夏公開の新作アニメーション映画『きみの色』。
インタビューさせていただいたのは、アニメーション監督・山田尚子さんと、
声の出演をされている鈴川紗由さん、髙石あかりさん、木戸大聖さんです。

今回もインタビュアーを務めるのは、グラニフ コラボレーション担当の石川です。
ジャパンプレミアの舞台挨拶前の貴重なお時間をいただいて、『きみの色』制作についての想いから、
コラボTシャツを使ったコーディネートまでお伺いした、にぎやかな対談になっています。
ぜひ最後までご覧ください。

<登場人物>

日暮トツ子/鈴川紗由

全寮制の学校に通う女子高校生。
子供のころから人が「色」で見えるが、唯一自分自身の「色」だけは見えない。
担当はピアノ。

作永きみ/髙石あかり

トツ子と同じ学校に通っていたが、突然中退。
同居する祖母に辞めたことを言えず、毎日学校へ行くふりをしながら古本屋でアルバイトをしている。
担当はボーカルとギター。

影平ルイ/木戸大聖

離島に住む、音楽が好きで物静かな男の子。
母親に家業の病院を継ぐことを強く期待され、好きな音楽の道に進みたい本心を隠している。
担当はテルミン・オルガン。

メインキャスト3名にとっての
『きみの色』

石川今回コラボレーションを担当させていただきました、グラニフの石川と申します。よろしくお願いします。

鈴川髙石木戸よろしくお願いします。

石川初号試写のときに僕も作品を拝見させていただきました。実は皆さんの一つ前の列で…。

鈴川髙石ええ!そうだったんですか?!

髙石あのボロ泣きの挨拶のとき!

石川そうなんです(笑)。最後に挨拶されていたところも、すてきでした。とてもすばらしい作品とコラボレーションさせていただけるんだな、と僕もすごくうれしかったです。

まずは作品について、次にコラボレーションさせていただいたアイテムについて、順にインタビューさせていただければと思います。

■キャスティングはオーディションで

石川『きみの色』のキャスティングは、皆さんオーディションだったそうですね。候補人数も多かったと思うのでやはり最初はテープオーディションで、2次から実際に演じるような流れでしょうか?

髙石はい。2次からは最初に資料があって、そこから声を録音して、という感じです。

石川選考が進む中で、オーディションの段階で台本のセリフを録音されたりもするのですか?

髙石そうですね、一部分を切り取ったものを。それと、キャラクターのデザインや詳細、あらすじなどいただいて、そこから声を作り上げていきました。

石川なるほど。オーディションの過程でキャラクターのビジュアルも見て、段階的にイメージされた上で声を作られていく感じなんですね。

鈴川髙石木戸はい。

石川おもしろいですね。皆さん、声優としてのお仕事は初挑戦という方もいらっしゃったんでしょうか?

鈴川髙石木戸初めてです。

石川皆さん初めてだったんですね! 役が決まったときの感想を、お一人ずつお伺いしたいです。

髙石さんから、ぜひお願いします。

髙石最初は、(選んでもらえると)夢にも思っていなくて。オーディションを受けたのも、絶対通るんだというより「挑戦」として受けさせてもらっていたので、一歩一歩、審査が通っていくうちに、あれ? と、自分でも信じられないような感覚でした。

最終選考はみんなで集まって、ブースで声を録音して…という形でしたが、すごい空間でした。皆さんに圧倒されて「あぁ、これは難しいだろうな…」と思っていたので、「決まった」と聞いたときは驚きましたし、いち早く親に連絡もしました。すごくうれしかったです。

石川作品を拝見して、お三方の空気感のバランスがすばらしかったので、どうやってたくさんの候補者の中から決まったのか興味が沸きました。審査の段階から一緒に録音することもあったのでしょうか?

木戸それはこの3人ではなかったですね。何人かで録音しましたが、たぶん組み合わせは違ったと思います。

石川それでこの3人が最終的に選ばれて、あの空気感が作り出せるなんてすごいですね。

次は鈴川さん、感想をお聞かせください。

鈴川私もあかりちゃんと同じで、山田監督の新作アニメーションにまさか受かるとは思っていなくて。もともと声優さん自体が好きだったので、審査で声優さんが実際にアフレコをしているのと同じスタジオに行けるということがただただ楽しみでした。

でも、オーディションが進んでいくにつれて「あれ? もしかして…もしかしてチャンスあるのかな?!」と思うようになって。合格は、事務所の方からサプライズで伝えていただいたんですが、 もう頭が真っ白になってうれし涙でした。本当にアフレコをする日まで、全然実感が湧かなくて。ようやくアフレコが始まって「あっ、本当に私、トツ子なんだ」と感じました。

石川映画を拝見しても、トツ子ちゃんは鈴川さんしかいない、鈴川さんありきでできたキャラかな? と思うくらい、ぴったりでした。

鈴川ありがとうございます。

石川木戸さんは、いかがでしたか?

木戸僕もやはり(声優に)挑戦したことがなかったので、オーディションのお話をいただいたときは初挑戦するワクワクとともに、経験がないぶん手応えがよくわからないけど、やれることはやってみよう! と思って受けていました。

2人と一緒なんですが、「あれあれ、どんどん進んでいくな?」となって。ここまで来たら、絶対自分がルイ君をやりたい! とどんどん思うようになっていたし、もともと山田監督の作品も見ていたので、最終的に出られると決まったときは素直にうれしかったです。ただ、声優をやったことがない不安もどこかにはありました。

石川そうだったのですね。ルイ君のすてきなキャラクターを本当にそのまま表現されていて、「いそうでいない」というか、あんなにすてきな男の子を演じられるって、すごいなと感じていました。

木戸ありがとうございます。

■声優は初挑戦、俳優の演技との違いは?

石川俳優として活動されていく中で、ご自身で役を演じられるのと、声のみでの演じ方とで違いはありましたか?

髙石全然違いました。映像作品の場合は目の前にカメラが何台もあって、いっぱいスタッフさんが動いていてその中で演じますが、アフレコではブースで収録するので、部屋の中には誰もいなくて、私たち3人だけ。あるのはマイクと画面だけでお芝居する緊張感も全然違いました。
お芝居だと表情があって、それに声がついてくる感覚ですが、声優のお仕事では「このぐらいの尺で言葉を発する」と決まっているので、それにあわせる難しさをすごく感じました。セリフだけにならないよう感情をどう持っていくか、というおもしろみと難しさがありました。

石川僕では想像もつかないような、大変さがあるんでしょうね。

木戸さんはいかがでしたか?

木戸今あかりちゃんが言ったことと似たことになりますが、感情を表現する点で自分の表情や動きも込みで見せられるのが映像のあるお芝居です。でも今回は、山田監督が描かれた3人のキャラクターの既にある表情や動きに自分たちはある種「声」という材料のみでお芝居をつけなければいけない。そういうところは非常に違うな、と思いました。

例えば「喜んで飛び跳ねてる」という動きがあったとき、その息遣いまで全部、声で表現しないといけない。普段のお芝居では、身体全体で表現するので意識して音を出すことはないから今回は、「こんな感じかな?」とセリフやシーンごとに音を模索しながら表現させてもらいました。

石川皆さん完璧に演じられてたんじゃないかなと、僕は見ていて思いました。

鈴川さんの演じるトツ子は、しゃべってないときでも楽しそうな雰囲気ですよね。映画を見ているうちは没頭して気づけませんが、演技の中でも今のお二人の話のようにそれを息使いだったりで表現されていたわけですよね。やっぱり、初挑戦で…。

鈴川はい、初挑戦でした。

石川僕はあまり情報を入れずに拝見したかったので、『きみの色』を試写で見たときもそれを知らず、まさか声優さんの経験がない状態でやられているとは全く気づきませんでした。試写の最後のご挨拶ではじめて、皆さんが初挑戦と知って本当に驚きました。鈴川さんは初挑戦、いかがでしたか?

鈴川私はアフレコの時点ではトツ子たちと同じで高校生だったんです。なので、あまりいろいろと深く考えて作り込みすぎないように、素朴でまっすぐな素直なかわいさを等身大で演じられたらいいな、と意識して大事にしていました。監督にも「鈴川さんのままでやってもらっていい」と言っていただいたので、作り込む感じはなかったです。

石川なるほど。もう本当に、トツ子ちゃんそのものだったんですね。すてきでした。

ところで、皆さん楽器を演奏する役でしたが、実際に担当楽器を演奏する機会はあったのでしょうか?

鈴川髙石木戸弾け…ないです(苦笑)。

石川なんと!それでもあれだけのリアルな演技をしているんですね。キャラクターのアニメーションの動きも相まって、勝手に皆さんできるんじゃないかな? とか、実際に演奏している印象に思わせられました。想像力であそこまで演じられるのはすごいです。

鈴川髙石木戸できたらいいのですが、難しくて(笑)。ありがとうございます。

■主演の3人が考える『きみの色』の見どころ

石川次に、作品の見どころをそれぞれお伺いさせてください。

髙石私たちが演じた3人以外のキャラクターも全員すごく魅力的です。それぞれが抱えている悩みや心の機微をすごく丁寧に描いているので、3人と共通するようなお悩みをお持ちの方にも、すごく刺さる作品になっていると思います。

鈴川トツ子たちと同じ世代の方が共感できる場面がたくさんありますが、今あかりちゃんが言ったように、もちろんどの世代の方にも響くような、3人の空気感や日常が本当に美しい色と音楽で描かれています。普段の生活の中でのモヤモヤも浄化してくれるような、そんな作品だと思います。

石川ありがとうございます。僕はもう高校生の倍以上の年齢で、自分は経験したことがないタイプの青春なのに懐かしいと思える部分がありました。

木戸僕も、3人の中で1番高校生から離れていると思うのですが、今石川さんがおっしゃったように、自分の高校時代を振り返ってみたり、「こんなことしたかったな」と思えることが描かれています。

その青春の感じや、思春期の3人がどこか悩んでいるけれど、そこで1歩2歩前に進んだときの、この年齢ならではの爆発力というか、人を魅了する力みたいなことが映画の最後にかけてとてもよく描かれていると思います。

それが山田監督の色彩豊かなタッチや、音楽監督の牛尾憲輔さんの音楽で、すごく多彩に表現されている映画です。そういうところが魅力で、見どころだと思います。

石川若さ故の爆発というか、行動力。大人だったら一瞬ためらってしまうようなこともキャラクター達はやってくれていますね。お話いただき、ありがとうございます! 本当にすてきな作品とコラボレーションさせていただいて嬉しいです。

コラボレーションTシャツは
「色」にこだわった5種類

石川次に、今回のコラボ商品をご紹介してもいいでしょうか?

鈴川髙石木戸ぜひ、お願いします!

石川今回、Tシャツを5種類作らせていただきました。「色」にもこだわっています。

石川まずはこちらのキービジュアルです。作品タイトルと同様に「きみの色」とタイトルをつけさせていただきました。

実際のキービジュアルから少し色を変えて、着続けやすい感じにしています。デザインやロゴもちょっと詰めたりとTシャツ向けに調整させていただきました。

石川次に、トツ子ちゃんがクルクルしている感じをぜひTシャツにしたいと思い、2枚目はこちらです。タイトルは「トツ子」です。

鈴川これ好きです!

髙石かわいい!

木戸ね、すごい。

石川1人で踊っているシーンがすごく可愛いですよね。今回すべてのTシャツの背中首元にロゴが入っていますが、それぞれ違う色でプリントしています。トツ子ちゃんのロゴの色はピンクです。

石川次は「水金地火木土天アーメン」というタイトルのTシャツです。作品の最後の方に出てくるラジカセに、皆さんが楽器を演奏している手の線画を重ねさせていただきました。

1枚の絵にしてしまうと、アニメーションのように動かないし音も聞こえないので「なんとかこのラジカセから音が聞こえているようにできないかな?」と、デザイナーと工夫して作らせていただきました。

石川このデザインだけ、背面に「しろねこ堂さんが新曲をアップしました」っていうものを入れています。最後まで作品を観た方にはグッときますよね。

木戸わぁ、いいですね!

鈴川ふふふ。

石川映画公開時に着て観に行きたくなるようなデザインにしています。

石川4枚目はエンドロールのイメージをTシャツ用にアレンジして、3人並べています。

髙石ふふ。ルイが(笑)。

木戸あ、ははは(笑)。

鈴川かわいい(笑)。

石川動きを付けたくて段々と並べています。こちらの背面はロゴが青でプリントされています。

石川最後の5種類目はキャラクターの顔の線画です。設定資料から作らせていただいたデザインです。

髙石これ、贅沢なデザインじゃないですか? 私たちはこの絵を収録のときに見ながらセリフをあてていました。

鈴川髙石木戸うん。いいですね。

石川そうなんですね。思い出が詰まっているというか、我々としては意図せずアフレコ時を思い出してもらえるデザインになったのですね。

■3人のキャラクターが着るなら、どんなコーディネート?

石川今回はこの5つのデザインでTシャツを作らせていただきましたが、それぞれトツ子ちゃん、きみちゃん、ルイ君だったら、どう着こなすと思いますか? どんなコーディネートをするでしょうか?

髙石『きみの色』は、監督がTシャツや衣装にもこだわっていらっしゃいますよね…。

木戸ステージ衣装とか?

髙石あ、よさそうじゃないですか?

木戸アンコールとかで。

鈴川髙石あ、確かに! いいですね、アンコール。

石川いいですね、アンコール。このTシャツ着て物販やってます! とか。

鈴川髙石木戸ははは(笑)。確かに物販、いいですね。

石川お揃いのTシャツというのも、文化祭っぽい感じありますよね。

木戸あ! そうですね。

■私生活に取り入れるなら、どう着る?

石川皆さん、キャストとしてではなく、素で普段の私服にこのTシャツを取り入れるとしたら、コーディネートはまた変わってくるでしょうか?

髙石私ものすごくTシャツ好きで、家にもういろんなTシャツがあるんです。いつも「どれだけこのTシャツを引き立てられるか?」と着ているので、もう、そのまま素材を生かして着させてもらおうと思います。

石川あえてひとつ、この中から推しTを選ぶとしたらどれでしょうか?

髙石うーん(笑)! でも、やっぱり思い入れがある、線画のTシャツでしょうか。

石川なるほど、ありがとうございます。鈴川さんはいかがですか?

鈴川私は今、大学に通っていてデニムやカジュアルな格好で行くことが多いので、Tシャツはあわせやすくていいですね。このTシャツも着て行こうと思っています。私もコーディネートはやっぱりデニムで、シンプルに合わせたいです。

石川あえて1つ選ぶとしたらどのデザインですか?

鈴川ええ~(笑)! そうですね…うーん、ラジカセのデザインは大学に着ていってもさりげなくてよさそうです。そっとアピールできて、すごくかわいいと思います。

髙石確かに。

石川これに気づいてくれる人は、映画を見てくれたとわかりますね。木戸さんはいかがでしょうか?

木戸そうですね…やっぱり僕も、デザインがこれだけかわいらしいので、パンと見えるようにTシャツ1枚で着たいですね。太めなボトムスが好きなので、インしてもいいですし。

石川木戸さんも、強いてひとつ選ぶなら…?

木戸僕、試写でエンドロールを見たときに、窓の3人はキャラクターの雰囲気も出ていてすごくいいなと思ったので、エンドロールのTシャツがいいです。

石川できあがったら、お送りさせていただきますね。

鈴川髙石木戸わぁ! やった~!(一同拍手)うれしいです! ありがとうございます。

石川ぜひ着ていただけるとうれしいです。本日は、ありがとうございました!

鈴川髙石木戸ありがとうございました。

『きみの色』への想い・
山田監督インタビュー

石川続きまして、山田監督とのインタビューに移ります。どうぞよろしくお願いします。

山田よろしくお願いします。

石川僕は山田監督の作品が好きで、本当にいろいろ拝見しているので、こうしてお話させていただけて光栄すぎます。そして、改めまして今回コラボレーションさせていただきまして、ありがとうございます。

山田こちらこそ、ありがとうございます。

石川実は初号試写で拝見させていただきました。『きみの色』、本当にすてきな作品でした。その後、絵コンテを共有していただき拝見しながら、何をお伺いしようか考えていたら、聞きたいことが多くなってしまい… なんとかコンパクトにまとめましたので、ひとつずつお伺いさせてください。

今回、『きみの色』は完全オリジナル新作ということですが、作品作りはどうやって何からスタートしたのでしょうか?

山田そうですね、すごくシンプルなところで「バンドがやりたい、音楽を奏でる人たちの物語が作りたい」というところからです。そこに、いろいろと付け加えていきました。

石川山田監督に「バンドを作りたい」というのがあって、その頭の中のストーリーから脚本の話をされてシナリオの文章が上がってくる、という流れですか?

山田はい、そうです。

石川キャラクターデザインはどのタイミングで作られるのでしょうか?

山田シナリオを吉田玲子さんに書いていただいたんですが、キャラクターデザイン原案をダイスケリチャードさんにお願いしましょうと話をしたのも、たぶんそれと平行して、といったくらいです。なので、シナリオがあまりできてない状態ぐらいからお話していたと思います。

石川その段階から、「こういう子たちですよ」なんていうお話をダイスケさんとされて、デザインができていったんですね。実はグラニフでも、何度かダイスケリチャードさんとコラボレーションをさせていただいて、映画を拝見したときにすぐに「ダイスケさんだ」とわかりました。

アニメーション業界にいない人間からすると、このすてきな作品に至るまでのきっかけが何なのか、どうやってここまで作りあげるのか? というのがすごく気になります。映画制作を進めていく中で「こうしたい、やっぱり少し前の段階に戻りたい」みたいなことも発生するんですか?

山田行ったり来たりはすごくあると思います。特に『きみの色』はオリジナル作品で、原作を頼りにしていく訳でもないので、なかなか柱がしっかりできるまでは、行ったり来たりします。シナリオ会議でもいろいろと考えて、絵コンテを描きながら考え直したりもして、すごく揺れがありますね。でも自由な感じで作っていこうと。

石川そういう中で、監督の中の指針というか「こっちの方向に進んだ方がいいものになる」というのは、ご自身の中に明確に現れてくるものなのでしょうか?

というのも、映画作品とはもちろん違いますが、僕らグラニフもコラボレーションやオリジナルの商品を作るとき、ゴールとして「商品」を出さなければいけなくて。「作る」という意味でどこか共通点もあるのではと、ぜひお伺いしてみたいです。

山田私はずっと心のスローガンにしていることがあって、尊敬する先輩に「当たり前のことなんだけど、人っていうのはそのとき向いてる方に向かうんだよね」と言われたことがあるんです。

後ろを向けば後ろに動いていくし、前を向けば前に動いていくという、本当に物理的なことなんですが、「そうであれば、前を向いていこう」という指針にしています。作品としても、ずっと前を向いていけるようなものを作ろう、というのを心に据えてやっています。

石川すてきな言葉ですね。貴重なお話をお聞かせいただいて、ありがとうございます。

『きみの色』を作るにあたり山田監督が大切にしたことも、やはり「前を向いて」ということでしょうか?

山田そうですね。やっぱり映画を見ている間は、いろいろな悩みから解き放たれてほしいというか、自分もそう思いたいんです。映画を見ている時間はとても大切な特別な時間だと思うので、そういった前向きなパワーがあるものでありたい、と思いました。

石川先ほど、主演の鈴川さん、髙石さん、木戸さんとお話をさせていただきました。皆さんの声の演技は何の違和感もないというか、本当にぴったりで「この役のための声だな」と感じながら試写も拝見していました。

今回、先に監督の中にイメージがあったと思いますが、お三方のオーディションでの決め手はどこだったんでしょうか。たくさんの方の中から選ぶのは相当に大変なことだと思いますが、どうやって決められましたか?

山田今回は原作のないオリジナル作品だったので、答えをちゃんと自分の心に持っておかないと、すごくぶれてしまうんです。あの方の考えと可能性もすてきだし、この方の可能性も…と無限に可能性が広がってしまうので、芯を持って挑みました。

トツ子役の鈴川さんは、最初のオーディションテープのときからグッと来た声をされていました。それで、初志貫徹でという気持ちで選びました。

そこから、このトツ子を囲む人たちはどういう「音」がいいだろう? と考えていくような形でした。結果、本当に皆さん、ご本人たちがこの3人に見えてくるぐらいで、すごい出会いをしたな、と思います。

石川先ほど僕も近い距離感でインタビューさせていただいたのですが、目の前にいるのは鈴川さん、髙石さん、木戸さんご本人であるのに、なんだか「トツ子ちゃん、きみちゃん、ルイ君がいるな」と錯覚しながら、お話させていただいていました(笑)。

山田私も、本当にそう思います。

石川「トツ子」というのは名前として珍しい気がしますが、由来はあるのでしょうか?

山田そんなに難しく考えず、愛嬌のある名前だな、となんとなく思ってつけた感じなんです。

ただ、映画というのは出会って、1回きりの時間じゃないですか。その間に名前を覚えてもらうというのは、すごく大事だと思っていて。皆さんが覚えやすい名前にしたいな、みたいなことは考えていました。ちょっとだけチャーミング、でもふざけすぎてない感じ。いや、ふざけてるかもしれませんが(笑)。愛着がわくというか。

石川確かに、引っかかるし忘れませんね。そういう発想からだったのですね。

■山田監督にとっての「音楽」

石川今回、もともと音楽がスタートだったということですが、 他の作品も含め山田監督の作品では「音楽」に特別なものがあるように感じます。この「音楽」の立ち位置や役割は、どう思われているのでしょうか?

山田コミュニケーションツールとして、言葉の外にある繋がりを作っていけるというか。多くを話さなくても「この音が好き」「このリズムが好き」というようなところで、心が繋がっていける気がしています。

対人のコミュニケーションの一つの方法としてもありますし、たった1人で自分のためだけに自分だけで聞く、自分だけが好きな音があるとか、個人的な部分もすごく受け止めてくれる。自分というものを自分で確認するための方法でもあります。

それから、物理的にも「音」というのは、 物体の音圧で受けたり響いたりするので、そこで体が揺さぶられる感覚、受け取る感覚、などの「体験」でもあります。

本当にいろんな 魅力を内包しているものだと思っています。誰かが歩く速度に寄り添うものであったり、動く心臓のようなものだったり。そんないろんな気持ちがあって「音楽」が大事だな、と思います。

石川映画を観ていても伝わってきます。ですが、僕の中でうまく言語化できなくて、今日お伺いできてよかったです。

東宝MOVIEチャンネルの公式YouTubeで、音楽・音楽監督の牛尾憲輔さんにフォーカスした動画がありますが「水金地火木土天アーメン」の曲ができるまでの楽しそうな雰囲気が見られるのがまたうれしいなと思いました。

僕は8月30日の公開日より前に試写を観せていただいたのでまだ誰とも共有できないのですが、「水金地火木土天アーメン」が映画で聴いたときだけでなく、次の日もその次の日も、ずっと頭の中に残るんですよね。

山田知ってしまった以前以後、みたいな。

石川映画体験として1日で終わらないというか、しばらく感情を支配される感じになりました。ここまでずっと尾を引く映画体験は珍しく、すごい作品だと感じています。

山田それはうれしいです! 意外とコスパがいいですね(笑)。

石川いや、そうだと思います! 楽しめる期間が長いっていう。

■監督が作品に込める表現と「伝えたいこと」

石川もう1つ、僕の中で言語化できていないことがあります。今回の作品は、ストーリーとしては実写でも表現できる物語ではありますよね。アニメ作品として表現する意義は、どういったところにあるのでしょうか?

山田あまり深く考えたことはなく、私自身はアニメを作る人間なので他のことはわかりませんがなんとなく思うのは、アニメにすることによって情報量が少し「削られる」ところです。

実写だと本当に全てのフレームに動きが入っていて、ずっと時間が流れ続けています。でもアニメは大体の手法として、止まっている画面の連続でできているので、例えば3フレームずつぐらいで止まったりします。そこでの、無意識下で情報を削り落とされた部分を補完する、みたいなところにすごく感情が乗ってきて、伝わるものがよりおもしろくなっていく。確かにアニメじゃなくてもいいかも、という内容や設定ではあるかもしれませんが、その削られた情報から受ける快楽、みたいなものはあるんじゃないかな、となんとなく思っています。

石川難しい言語化をありがとうございます。すごく腑に落ちました。当然、アニメで見れてよかったと思っているのですが、何が違うのかはどう言ったら良いのか自分の中で答えが出ていなかったものが、ちょっと近づけた気がします。心との距離が近いというか、 ダイレクトに伝わってくるものがあるなと思っています。

山田ありがとうございます。でも、私も言葉にすることが苦手でアニメを作ってる、みたいなところがあるので、必死でお話しました(笑)。

石川ありがとうございます。十分伝わってきました。その言葉にならない感情みたいなことが作品には描かれていて、特に山田監督の作品からは多く伝わると思います。例えばつり革を持つ手がだんだん近づいてきたり、 足だけを映して距離を表したり、あえて表情を描かないことで気持ちが伝わってくる部分などがあります。

これは実写でも起こり得る演出なのか、 山田監督の作品だからこそ出てくるものなんだろうか? と思いながら、拝見していました。「このカットが入っているから、より次のセリフが沁みるんだな」ということはとても多かったので、絵コンテを拝見できてすごくおもしろかったです。

山田絵コンテは実は普段より荒々しかったです(苦笑)。いつもはもうちょっと描くんですが、今回は時間に追われて。「あとはスタッフの方たちを信じる!」という内容でしたね。

石川十分すごかったです!それから、『きみの色』を拝見して「変えたくても変えられなかったもの」や「後悔しないように生きてほしい」という、シスター日吉子先生(声・新垣結衣)の気持ちというか意志みたいなものが、すごく伝わってきました。この作品に限らず、監督の中で「変えたくても変えられなかったもの」というものが何かあったのでしょうか?

山田その言葉は、脚本の吉田玲子さんが入れてくださった言葉なんですが、最後の最後までずっと、自分の中で考え続ける言葉でした。登場人物たちの目を借りてその言葉を考えてみても、今もまだわからないかもしれません。

変えたくても変えられないものを、変える勇気なのか? 変えられないものを受け入れる勇気なのか? みたいなことはずっと考えています。『きみの色』の作品としては着地しつつありますが、私個人としてはまだまだ道の途中です。これだ、とはまだわからないですね。

石川僕もずっと考えてしまいます。映画を見たあと、作品の中の楽曲もそれこそ1週間ぐらいずっと頭の中に流れているんですが、「変えられないものを受け入れる」とか「変えられないもの変える」という部分、自分に置き換えたときどうなんだろう? って、ずっと問いかけをされているようで。後に残るなと思っていて。答えはまだ僕も出ないのですが、でもそれをずっと考えていることに意味があるのかな、と思います。

山田その方が、いいのかもしれません。

石川そういうことを考えるきっかけを、『きみの色』からいただきました。

■おもしろいと感じたコラボTシャツは?

石川最後に、今回コラボレーションさせていただいた商品を紹介させてください。今回は5種類のTシャツを作らせていただきました。 まずキービジュアルのもので、『きみの色』というタイトルです。アパレルにあわせて少し色や背景を調整させていただいています。

山田わぁ、すごく優しい色がちゃんと出てて感動してます。

石川今回のアイテムは全て背面首元にロゴをプリントしているのですが、デザインによって色を変えさせていただきました。「色」でも選べるようにしたいというアイディアです。

山田いいですね。

石川次に、やっぱりトツ子ちゃんがくるくる回っている印象がすごくかわいいので、トツ子ちゃんだけ抜かせていただいて、くるくる回っているのを表現したTシャツです。こちらのロゴはピンクです。

山田すごくきれいですね、すばらしい。

石川3種類目は「水金地火木土天アーメン」というタイトルで、最後に出てくるラジカセです。そしてラジカセから音が聞こえてくる感じをどうTシャツに表現しようかな? というので、3人が演奏している手を線画で上から重ねさせていただきました。

このデザインは後ろのロゴの上に「しろねこ堂さんが新曲をアップしました」と入っています。

山田あっ!(拍手)すごく愛を感じますね。

石川4種類目は、エンドロールで流れるところを、3人らしいカットで並べさせていただきました。背面のロゴは青にさせていただいています。

石川最後に、やっぱりみんなの顔がちゃんと見えるものも欲しいなっていうことで、設定資料からみんなの顔を使わせていただきました。背面のロゴは緑です。

この5種類を、映画の公開とあわせて発売する予定です。いかがでしょうか?

山田さすが、目の付けどころが変わってるな、と思いました(笑)。いい意味で、です。

ご一緒しているスタッフさんたちが、かわいかったりおもしろいTシャツを着てると話を聞きに行くんですが、「グラニフです」と返答されることが多いです。

石川本当ですか! うれしいです。

山田なので、今回どんなものができてくるのかすごく楽しみでした。ラジカセのデザインなどマニアックですよね。手の線画など、なかなかできないデザインだと思います。

くるくる回ってるトツ子のデザインも、「シルエットの美しさ」に着目していただいて、とても感激しました。

色もすごくきれいに出ていて、いいですね。

石川弊社のデザイナーとまた別の回の試写を観させていただいて、「この作品の綺麗な部分を、表面的ではなく表現してください」とお題を出して、結構ハードルを上げました(笑)。

「このシーンは作品を伝えるうえで大事なんじゃないか」「見終わった後はこれが欲しいよね」と、何案か出しつつ議論したうえでそぎ落として最終的にこうなりました。マニアックだと言っていただいて、よかったです(笑)。

山田ふふふ。感激しました。

■監督が考える3人のコーディネート

石川先ほどキャストの皆さんにもお伺いしたんですが、監督はトツ子ちゃん、きみちゃん、ルイ君がどう着こなすと思いますか?

山田トツ子はたぶん、スカートの中にインしていい感じに着そう。ルイ君はジャストサイズのTシャツを、ジャストサイズのパーカーなどとあわせてピチッと着そうな感じ。きみちゃんはもう、XLみたいにすごく大きいサイズをダボっと着てほしいですね。

石川キャストの皆さんは「文化祭のアンコールに、みんなでTシャツを着て出てくる感じがいいね」とお話いただきました。文化祭ぽくていいよね、なんて。

山田なるほど、みんなであわせて着る感じに。

石川ちなみに、山田監督が私服で今回のTシャツを着るとしたら、どれをどんなコーディネートで着るでしょうか?

山田どれにしようかな。やっぱり、ラジカセのデザインが気になります。ちょっと大きめサイズで、スカートとあわせて着たいかなと思います。

石川ご自身の作品のTシャツを着ることはありますか?

山田思い起こせば、あまりないですね。他の監督の作品のものは着ますが、自分が監督した作品のものはあまり手に取ったことがない気がします。

石川グラニフで山田監督の作品のTシャツを作れてうれしいです。

山田ありがとうございます。私も本当にうれしいです。

石川聞きたいことはだいたいお伺いできたかと思います。映画は作り方がアパレルとは全く違うので、とても楽しく関わらせていただきました。

実は、作品を見て、今回インタビューさせていただけることになって、絵コンテを何度も見ながら何が聞きたいか挙げていったら質問原稿がすごいことになったので、個人的に聞きたいことはカットしました(笑)。

山田ふふふ。これはグラニフとしてじゃないな、っていう質問とかを?(笑)

石川そうです、ここで聞くことじゃないな、という質問もいっぱいあって(笑)。

改めて絵コンテを見直したとき本当によくて、その余韻から抜けられずに今日も過ごしています。

山田本当ですか、恐縮です。ありがとうございます。

石川こうやってお話しさせていただけてうれしかったです。

というわけで、『きみの色』公開の2週間前にはオンラインで予約を始め、公開のタイミングで店頭に並ぶ予定です。自信を持ってお届けできるアイテムになったかなと思います。

劇場公開して、たくさんの方たちに『きみの色』を見ていただくタイミングを楽しみにしています。

山田ありがとうございます。ぜひ、よろしくお願いします。

石川本日は誠にありがとうございました!

2024年8月30日(金) 全国東宝系公開 ©2024「きみの色」製作委員会

Profile

山田尚子(監督)

2009年テレビアニメ「けいおん!」で監督デビュー。数々の社会現象を巻き起こす大ヒットを記録し、2011 年『映画けいおん!』にて長編映画初監督を務める。「たまこまーけっと」『映画 聲の形』などの話題作で躍進を続け、2022年TVシリーズ『平家物語』、2024年リリース予定のショートフィルム「Garden of Remembrance」を監督。完全オリジナル劇場長篇最新作『きみの色』では、第26回上海国際映画祭金爵賞アニメーション最優秀作品賞を受賞。何気ない日常描写を瑞々しく描く映像センスと、繊細な映像演出で、現在のアニメーション界において日本のみならず世界で最も高く評価されている監督のひとり。

ヘアメイク:宮本愛(yosine.)

鈴川紗由(日暮トツ子)

2005年12月27日生まれ、和歌山県出身。20年、ユニバーサルミュージック初の女優・モデルオーディション「“ニュー・ヒロイン”オーディション」にて2500名を超える応募者の中から特別賞に輝く。23年、ドラマ25「クールドジ男子」(TX)でドラマ初出演、『女囚霊』(鳴瀬聖人監督)で映画初出演を果たす。若手俳優の登竜門として知られる「私の卒業プロジェクト」5期の映画『こころのふた~雪の降るまちで~』(北川瞳監督)のキャストに選出されるなど、期待を集める。

ヘアメイク:菅長ふみ(Lila)
スタイリスト:野田さやか(Bipost)

ミックスジャガードジャンパースカート ¥25,300/Chesty

チュールウェッジサンダル ¥18,700/CHIBA YUKA×Chesty (ともにJOCカスタマーサービス 078-392-2324)

レーストップス ¥4,400/MAJESTIC LEGON (https://www.majesticlegon.jp)

髙石あかり(作永きみ)

2002年12月19日生まれ、宮崎県出身。19年より女優として本格始動。21年、『ベイビーわるきゅーれ』(阪元裕吾監督)のW主演で映画初主演。主な出演作に、映画『わたしの幸せな結婚』(塚原あゆ子監督/23年)映画『映画『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』(小林啓一監督/24年)/以上23年)、ドラマ「墜落JKと廃人教師」シリーズ(MBS)「わたしの一番最悪なともだち」(NHK/以上23年)など。公開待機作に映画『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』(坂元裕吾監督/9月27日)映画『スマホを落としただけなのに ~最終章~ ファイナル ハッキング ゲーム』(中田秀夫監督/11月1日)

ヘアメイク:住本彩
スタイリスト:金田健史

木戸大聖(影平ルイ)

1996年12月10日生まれ、福岡県出身。17年、ドラマ「僕たちがやりました」(KTV)で俳優デビュー。18年より、こども番組「おとうさんといっしょ」(NHK BSプレミアム)にて3年間レギュラーを務める。22年、Netflixオリジナルシリーズ「First Love 初恋」で佐藤健が扮する並木晴道の若き頃を好演して一躍注目を集め、23年の「僕たちの校内放送」(CX)でドラマ初主演。同年、『先生! 口裂け女です!』で映画初主演も果たす。主な出演作に、ドラマ「ゆりあ先生の赤い糸」(EX/23年)、「9ボーダー」(TBS/24年)、映画『大怪獣のあとしまつ』(三木聡監督)『メイヘムガールズ』(藤田真一監督/以上22年)など。

株式会社グラニフ
ライセンスプロデューサー
石川 祐

グラニフのコラボレーション責任者。コラボ商品の企画立案から商品リリースまでを総合プロデュース。作家や作品に寄り添い、一人のファンとして、商品開発に取り組んでいる。趣味はエンタメ全般、他人の趣味の話を聞くこと。

編集:石川祐、田尻実桜 / 文章:Kao / 写真:泉大悟

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