「ナガスギルイヌ」誕生のルーツは、
90年代のカルチャーにあり
インハウスデザイナーのインタビューを通して、
オリジナルキャラクターの魅力をお届けする「graniph CREATOR STORIES」。
第三回目を飾るのは、「ナガスギルイヌ」や「ネコノテモカリタイ」などを手がける
インハウスデザイナー、内田圭。
印象的なネーミングと、ユニークな発想で展開するデザインには
「思わず誰かに教えたくなる、SNSにアップしたくなる」
そんな魅力があります。
デザインのルーツは、学生時代に洗礼を受けたカルチャーや自身のライフスタイルにあるという内田に
デザイナーになるまでの道のりと、その原体験をインタビューしました。
取材・撮影場所:神保町 RECORD BAR JBC
音楽に没頭し、
クラブDJとして活動した青春時代
高校時代から音楽やストリートカルチャーに熱中し、渋谷や六本木のクラブでDJとして活動していたこともある内田。グラニフのインハウスデザイナーとしての内田のデザインスキルはその頃からほぼ独学で身につけたものだった。
「JAZZやHIP HOPなどはじめ、ジャンルに拘らずに音楽が好きで、放課後は渋谷に直行する日々。行きつけのレコード店を巡り、友人宅のDJ機材でDJの真似事をしながら音楽談義をする、そんな高校生活でした。20歳を越えてからは、実際にクラブでDJや、音楽イベントも主催しました」
DJとして活動する傍ら、内田は雑誌やポスターなどを切り貼りするコラージュのような技法でフライヤーの制作にも取り組む。
「当時はPCを買うことができなかったので、アナログベースでグラフィックを自作、または友人と共作してコンビニエンスストアで大量にコピーし配っていました。思えばあのフライヤーが初めてデザインした“作品”だったかもしれません。やがてPCで製作するようになってからは音楽仲間やオーガナイザー経由で他のアーティストからも依頼が入るようになり、100点近くはデザインしたと思います。当時は未熟だったこともあり、報酬といえばお酒を奢ってもらえることでした(笑)」
切り抜きのコラージュのみでアーティストの世界観を表現した
レコードジャケットがデザインのお手本に
特にデザインの参考にしていたものは、レコードのジャケット。
「著名なデザイナーが手がけた作品も多々あり、ポスターや広告媒体では見られない先進的な絵柄、独特な色彩に美学を感じていました。アルバイト代をつぎ込み、時には昼食代を節約してまでレコードを収集していました。自宅には1,000枚ほど所蔵しており、今でもインスピレーションを受けています。他には海外のフライヤーや雑誌、雑貨等のパッケージデザインも好きで、よく収集しています」
【右上】レコードやレコードジャケットが多数紹介されるディスクガイドやアートブックなどもグラフィックの参考に。
【左下】友人からの海外土産には、いつもその国のフライヤーや印刷物類を持ち帰ってもらうという。
【右下】東京・神保町の古本屋で見つけた海外のお菓子パッケージ。キャッチーなデザインに惹かれて収集。
“裏原系ファション”ブームが
教えてくれたもの
内田に影響を与えたもう一つのムーブメントは、90年代〜2000年代初頭に一世を風靡した“裏原系ファッション”。”裏原宿”と言われるエリアにストリートファッションブランド店が続々と登場し始め、当時の若者を中心に広がったカルチャーの黎明期をリアルタイムで体験したことが、財産になっていると語る。
「入店する頃には店内の商品がほぼ完売していて全く無い、という事が多々ありました。それを分かっていながらも「人気店に入店した」という優越感から行列ができる、そんな熱気がさらにブームを牽引していましたね。Tシャツ一枚を着ることも、着ている人を見ることも、それをネタに語り合うことすら楽しく、全てを含めて“カルチャー”でした。Tシャツのロゴ一つで一体感や会話が生まれる体験は刺激的で、グラフィックから派生するコミュニケーションの楽しさは、この時から育まれた気がしています」
ユニークで可愛らしいものから、カバーアートのような洗練されたデザインを多数手がける内田の多様なデザインは、これまでに蓄積された自身の体験や感動から生み出されている。
【右】ストリートカルチャーや音楽に影響を受け誕生したグラフィックも多数。
デザイナーとして、目指すものとは?
大学卒業後、友人の誘いでグラニフに入社した内田。2002年の入社当初はTシャツプリント製版前のデータ処理等に携わり、その後デザイナーに転身。
「デザイナーが足りないという話を聞き、『デザインをやらせて欲しい』との趣旨を当時の社長に進言したところ『じゃあやってみる?』と思いの外あっさりと返事をいただき、晴れてデザイナーとしての道を歩むことになりました」
その後の長い修業期間を経て、今やグラニフの第一線で活躍するデザイナーとなった内田、リアルな体験や感動がデザインアイデアの源泉であることは今も変わらない。代表作である「ナガスギルイヌ」も、日常の何気ない一瞬から生まれたキャラクターグラフィック。
「散歩中に見かけた犬をグラフィックに落とし込んでみたのですが、平凡なデザインだったので一旦寝かせました。しかし後日、試行錯誤する中で胴体を必要以上に伸ばしてみたら、なんとも言えない可愛さを感じました。しかしそこに何か添えたいロゴ(ネーミング)が思いつかず “伸びた犬”とか付けていたのですが、どうもしっくりこない。その時に、当時聴いていたラジオの中で「〜すぎる」という言葉で盛り上がっていた何かしらの会話が記憶にあったので、『ナガスギルイヌ』と付けてみました」
【右】ポケットから胴体がはみ出すデザインは企画チームのアイデア。
グラフィックの魅力はもちろん、思わず声に出したくなるネーミングの妙により「ナガスギルイヌ」のアイテムは、大人から子どもまで幅広く愛されるコレクションに。特にSNSでは「何これ?w」「ナガスギルイヌだってw」と話題を呼んだ。
「『何これ?w』と言われるのを実は狙っています。グラニフのデザイナーは全員、心にひっかかるデザインを意識していると思うんです。皆様に愛されながらも、コアな趣向を持つ方も惹きつけたい、そしてその中からコミュニケーションが生まれる……。欲張りかもしれませんが、そんなデザインを目指しています」
今も尚様々なカルチャーに興味を持ち、日々の暮らしを楽しみ、言葉を大切にするからこそ生まれたキャラクターは、今日もどこかで「何これ?w」を生み出している。
Profile
株式会社グラニフ
プロダクトディビジョン デザインセクション
内田圭
2002年にgraniph入社。2年目からデザイナーとして商品のグラフィックを担当。時代・流行の変化にアンテナを張り巡らし、様々な情報や五感を通して得たアイデアを取り入れ、見た人の印象に残り、思わず写真に撮りたくなるデザインを心がけている。近年の代表作として「ナガスギルイヌ」「ネコハイヌハ」「ネコノテモカリタイ」「ウィークエンドドライブ」「アイアムヒア」等がある。飲み会、ジャイアンツ、ネットショッピング、Perfume、ガジェットが好き。
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「何これ?w」「可愛い!」
声に出したくなるコレクション
スタイリングに取り入れやすい形と色。
長く使えるアイテムの中に、
チラリとその姿を覗かせ、
存在感を放つ「ナガスギルイヌ」と
「ナガスギルネコ」たち。
目を留めた人が思わず「何これ?w」と、
楽しいトークが始まります。
チラ見えする姿が
キュートで楽しい
ゆったりしたシルエットのレイヤードTシャツ。裾からはナガスギルイヌがチラリチラリと姿を見せます。バックには通常モードの姿が刺繍され、ナガスギルイヌがどこまでナガスギルのか、一目瞭然です。
ネコ派の皆さん、
お待たせしました
ネコ派の熱い要望に応え誕生した「ナガスギルネコ」シリーズ。風合いの良い天竺を使用したベーシックなTシャツ。落ち着いたグリーンにパープルのネコとのコンビネーションは、この夏の定番アイテム間違いなしです。
可愛さも機能美も抜群
ポケットのトンネルを貫通するように刺繍が施されたナガスギルイヌがキュートなカットソーワンピース。バックには「FUTSUUU… (普通)」と書かれたイヌの刺繍も。両サイドにポケット付き。
掲載アイテム
表にも裏にもナガスギルイヌ
シンプルな黒のバケットハットをよくよく見れば、ナガスギルイヌの刺繍が。ブリム裏にもさりげなく、総柄プリント入り。定番の形なのでテイスト問わずスタイリングに取り入れやすいアイテムです。
ポケットに収まりきらない、
スケールの大きさ
ボディスーツにTシャツをドッキングしたベビーロンパース。しっかりとポケットに収まる右下のイヌに対して、収まりきらないナガスギルイヌ。そんな姿になんだかほっこりするデザイン。両肩と股下にスナップが付いています。
子犬のワルツの調べとともに
自分のしっぽで遊ぶナガスギルイヌをビブ全体で表現したアイテム。ショパン作曲「子犬のワルツ」のあの優しく軽やかな旋律が、どこからか聞こえてきそう。
どこまで伸びる?
カラフルなナガスギルネコ
カラフルなネコが伸びて伸びて、最後には背中にまで。肩と股下にスナップが付いている、ゆったりとしたドロップショルダーロンパースです。
首元にまとわりつくネコに癒されて
表はオーガニックコットンスムース、裏はパイル生地のビブ。赤ちゃんの首回りを、ながーく伸びたネコが優しく包みこんでくれます。
その他、内田圭が手がける「ナガスギルイヌ」シリーズをはじめとするアイテムは、
こちらのクリエイターページでチェックできます。
撮影/村本祥一<BYTHEWAY> 編集/諸橋 宏 文/竹場晶子