愛らしさと怖さと不思議が混在。
ようこそ、石黒亜矢子の奇想天外ワールドへ
化け猫、妖怪、創造の生き物を独特の世界感で描き出す石黒亜矢子氏。
細やかな筆遣いと日本画のような色使いで迫力ある妖怪を描く一方、
かわいい「ねこまた」の家族が登場する絵本も手掛けるなど、幅広い表現力に魅了されます。
4回目のコラボレーションとなる今回は、これまでで最大の全17型をラインナップ。
グラニフで企画を担当する花井と新作コレクションについて語っていただきました。
取材・撮影場所:浅草 Gallery éf
わがままを言い合うようなキャッチボールで、
どんどん研ぎ澄まされていくデザイン
お気に入りのグラニフのアイテムは、
飾ってコレクションに
── 今回で4回目となるコラボレーションですが、グラニフでの商品化についてどのように感じていますか?
石黒氏(以下、敬称略) グラニフのコラボは「これを商品化するんだ?」と驚くようなマニアックなものをよく取り上げているのが好きだったので、初めて声をかけてもらったときは嬉しかったですね。水木しげるさんや楳図かずおさんのコラボの時も結構買いましたし、ビートルズの時も買いました。西巻茅子さんの『わたしのワンピース』のキッズワンピースは刺繍がきれいで、娘が着られなくなってもコレクションとして飾ってあります。
花井 ありがとうございます!水木さんも楳図さんも西巻さんも、私が担当なので嬉しいです。石黒さんのコラボは今まで夏に出すことが多かったのですが、今回はアウターなど秋冬ものにもチャレンジして、インスタの投稿や『石黒亜矢子作品集』、絵本『ねこまたごよみ』からいろいろなモチーフを選んで、ラインナップを作り上げていきました。
石黒 花井さんは、このデザインを変えてほしいというと、パッと別案を出してくれて仕事がしやすかったです。こういうコラボものは、デザイン変更についてあれこれ言いすぎたかなと反省することがあるのですが、グラニフさんではそういうストレスがなかったですね。
花井 石黒さんにハッキリ言ってもらった方が、やりがいを感じました。NGが出たけれど服のアイテムやデザインの配置を変えればOKが出るかも、ということをデザイナーに伝えて、たくさんアイディアを出してもらいました。「何か違う」と言われても、その感覚が石黒さんのセンスであり世界観なので、そこを大切に汲み取りながら表現に落とし込んだつもりです。
トカゲのスウェットが絶妙。グラニフがこれをやってくれるとは思いませんでした
── 今回のコレクションで、特に気に入っているアイテムはありますか?
石黒 とげおちゃんかな。これ、うちで飼っているトゲオアガマっていうトカゲをモチーフにしたものなんです。本来のトカゲはこういう形じゃないんですが、いま爬虫類を獣化して描くのがマイブームで。このとげおちゃんは上顎が欠けてしまって、こういう口の形をしているのが特徴なんです。気に入っているイラストなので、グラニフがこれを選んでくれて嬉しかったです。
花井 最初はアップリケで提案していたのですが、とげおちゃんのモフモフな体の質感を糸の流れで表現するために、刺繍に変更したいと伝えました。絶対かっこよく仕上げるので、出来上がったものを一度見てください!とお願いしたんです。
石黒 アップリケのほうがいいかなと思っていたのですが、実際に刺繍を見てみたらきれいに色や質感が出ていてよかったですね。こんな服見たことないでしょ。「古着屋さんで、変なスウェット見つけちゃった」と言いたくなる感じがよかった(笑)。
石黒さんに「気持ち悪い」って
言われると嬉しい
花井 私はこの総柄のシャツが気に入っています。石黒さんに「このピンクの獏が気持ち悪くていいですね」って言われたのが嬉しくて。
石黒 我々のオカルト・ホラー業界では「気持ち悪い」って誉め言葉なんです。
花井 であれば、非常に光栄です(笑)。グラニフのお客様も、こういう他では見たことがないようなものを期待しているし、私たちもグラニフにしか出せないデザインを目指して作っています。
石黒 これ、よく組み合わせましたよね。『石黒亜矢子作品集』にある獏、一角獣、笑笑猫に、獅子炎を組み合わせたのが、とても斬新で面白いです。
ありそうでなかった
“かわいい”アイテムにもチャレンジ
── 今回はかわいいモチーフのものも多いですね。
花井 アリスモチーフの作品は数年前から気になっていました。このデザインのTシャツを提案したとき、石黒さんから「Tシャツじゃなくてパーカーワンピースはどう?」と言われ、かわいい商品がイメージできたので作っちゃいました。
石黒 華奢な女の子がこのパーカーを着たらかわいいだろうなと思って。先日、個展に来てくれた中学生くらいの女の子が、背中に阿吽猫を刺繍したグラニフのブルゾンをブカブカサイズでスカートと着こなしていて、それがすごく似合っていて。その時自分も同じブルゾンを着ていたのですが「あっちの着こなしが正解だよね」と納得しました(笑)。このデザイン、下の娘が「かわいい!」って言うんですよ。最近の若い人の流行りファッションは自分ではわからないから、たまに親しい友達や娘たちに聞いたりして、意見を取り入れるようにしています。
花井 そうだったんですね。今回はかわいい感じのものをあえて出して、今までのグラニフの石黒さんコラボではなかったテイストにチャレンジしています。以前のロングブルゾンも、デザインをお見せした時にはあまり石黒さんに伝わりませんでしたが、かわいくなるんです!と強気で進めさせていただきました。サンプルを見てとても喜んでいただけたので、私たちも嬉しかったです。
石黒 この吹き出しのついているキッズ用の長袖Tシャツ。パッと見てかわいいデザインだけど、何がもとになっているかわかる人いるかな?
花井 『石黒亜矢子作品集』の目次からですよね。絵と吹き出しだけを取り出すというのは、デザイナーのセンス。かわいいだけでなく、アリスや化け猫の絵に何の言葉が書いてあったんだろうと想像する楽しみがあるので、二度楽しめますね。
石黒 これ、お泊まり保育などでお友達に吹き出しに好きな言葉を入れてもらうのも面白いかもしれません。男の子も女の子も着られるデザインになっているのがいいですね。
── 作品の中に出てくる毛筆の文字やTシャツなどに使われている落款もご自身で作られているんですか?
石黒 文字は自分で書いています。落款は、友達のSuper Jet Joeさんというデザイナーが作ってくれたものです。ローマ字のISHIGURO AYACOを縦にデザインしてくれたんです。かっこいいんですよ。
花井 これがローマ字だって気付いたときは、感動しました。「なんて書いてあるんだろう?」って聞かれると、ついつい得意顔で解説しちゃいます。
それぞれのキャラクターの物語が
頭の中で広がっていく
── 石黒さんは絵を描かれるとき、自分で何か設定を決めて描かれますか? それとも描きながら、想像が膨らんでいくのでしょうか?
石黒 どっちもありますね。私はもともと妖怪を描いていたので、正確なものを描かなきゃいけないときは調べますけど、だいたい好き勝手にやらせてもらっています。「猫舌茸」のときは、展示をする際に「猫舌で」とお題があったんです。猫舌だったらベロだなと思って長く描いて、当時キノコが妙に流行っていたから上に載せてみたんですね。それがけっこうおもしろかったので、他にもいろんなキノコで描いてみようと思って、広がっていきました。そのときどきのテーマが自分の中にあって、それに肉付けして考えていくことが多いかなと思います。虫を妖怪化していくのに牙を生やしていったり、爬虫類を哺乳類化したいから毛を生やしたり、1つ考えたらそれをアレンジしてシリーズを作ったりします。
── 確かに石黒さんの絵は、そこから何かドラマが始まりそうなエネルギーを感じます。
石黒 絵本『ねこまたごよみ』に出てくる五つ子も、それぞれ妖術が使えるという設定です。少年ジャンプ世代なので、『ジョジョの奇妙な冒険』のような設定を考えるのが好きなんですよ。五つ子も、一匹は体から鉱石が出てくる妖術、草木が出てくる妖術、牛になる妖術…とそれぞれ違います。頭の中に物語があるんです。
花井 『ねこまたごよみ』の本からは、如月のページの「ねこねこカーニバル」のシーンをデザインして提案したのですが、ちょっと違うねということで、「たとえば、これなんてどう?」と提案してもらった「しちごにゃん」をワンピースに採用させてもらったんですよね。
石黒 あれ、通ると思わなかったです。これが売れ残ったらプレッシャーですね(笑)。
── 今回のラインナップには、絵本の『ねこまたごよみ』のほかに、『おふろ』の絵が採用されていますね。これもとてもかわいいです。
花井 『おふろ』がモチーフの猫耳パーカーは、最初はシリーズ絵本に登場する猫の家族5匹を盛り込んでデザインしていたのですが、石黒さんに見てもらって最終的に2匹になりました。
石黒 5匹いると華やかすぎる感じがしたんです。なので2匹取ってもらったんですけど、サンプルを見た時にママがちょっと浮いている気がしたので、さらに1匹取ってもらいました。絵本の設定では、『おふろ』の中でお父さん猫がこの子猫を呼んでいるシーンなので、2匹だけの方が物語性があっていいんですよ。
花井 そういう石黒さんの感覚的だったり理論的だったりするセンスを、ああでもないこうでもないと考えながら探っていく作業が楽しかったです。お互いにわがままを言い合うような心地良いキャッチボールを通してできた作品が多いので、ラインナップに期待してほしいです。
石黒 特に女性やお子さん向けのアイテムは、ぜひ着てほしいなと思っています。私も気に入った自分の作品の服は着るんですが、若い人と一緒に着るのが気恥ずかしいときは、2、3年寝かして着ようと思っているんです。2、3年置けば「何そのシャツ?(斬新!)」ってなるから大丈夫ですよ(笑)。
Profile
石黒 亜矢子(いしぐろ あやこ)
1973年生まれ。絵描き。絵本作家。主に創造の生き物、妖怪、化け猫などを描く。絵本、装丁画、挿絵などの仕事をしながら、個展開催や企画展参加などで活動中。猫と爬虫類の世話と部屋で映画を観ることが幸せ。
プロダクトディビジョン ライセンスセクション
花井 香穂里
グラニフのコラボレーション担当。作家や作品へのリスペクトを大切に、コラボレーションによる化学反応を最大化すべく商品開発に取り組んでいる。趣味は音楽。自身で作詞作曲した歌を聴きながら一緒に歌うタイプ。
化け猫や幻獣から、
愛らしい子猫まで。
石黒亜矢子の世界観を
堪能できるコレクション
クリエイティブな幻獣や
ユーモラスな猫又の親子など、
石黒亜矢子の表現の幅の広さを
楽しめる全17アイテムを紹介。
今回はブルゾンや親子でお揃いを
楽しめるTシャツもラインナップ。
“猫の手も借りたい”日に、ぜひ着てみたい!
ベーシックな白Tシャツに、「猫の手貸します」と書かれた看板を手にした侍のようないでたちをした猫をデザイン。このTシャツを着て、忙しそうな人に猫の手を貸してあげては?
シンプルな黒Tシャツに映える迫力満点の寅
『石黒亜矢子作品集』より。干支シリーズの中から今年の干支である寅を大きくバックプリントにしたクールなデザイン。フロントの左胸には石黒氏の落款印を刺繍してワンポイントに。
親子で着たら2倍可愛い!
カラフルな「ちびねこウクレレ」
メキシコ風なポンチョに身を包み、ウクレレを弾いているちびねこのデザイン。大人は長袖、キッズは半袖を用意。「かわいくて気に入っているのが、このウクレレの猫。思った以上に色がきれいで、特にピンクがきれいに出ましたね。このかすれ具合が絶妙で、質感がいいな。親子で着てもらえたら嬉しいです」(石黒氏)
鮎を囲んだ猫たちの
ユーモラスな表情に注目!
舌なめずりやヨダレを垂らしたりしている6匹の猫たちが、3匹の鮎を包囲しているデザインをバックプリントに。フロントの左胸には舌なめずりしている黒猫を刺繍。リラックスシルエットの長袖Tシャツはシーズンレスで活躍します。
猫又の三味線イラストは小さめでも存在感大
三毛の猫又が三味線を弾く小粋なデザイン。チャコールグレーのTシャツ地と猫又の色遣いが好相性。バックの右肩には火の玉を刺繍。さりげないイラストや刺繍の配置が大人っぽくクールです。
石黒作品のアートな魅力が詰まった
プリントシャツ
獏、一角獣、獅子炎、笑笑猫がギュッと詰まったグラニフオリジナルのパターン柄は、まさに着るアート。シャツは張りのあるさらりとした肌触りが特徴のタイプライター生地を使用しています。シンプルなボトムスに合わせてコーデの主役に。羽織りものとして着ても素敵。
化け猫の細かいディテールまで
精緻な刺繍で表現
『石黒亜矢子作品集』より。黒のクルーネックスウェットに、裾に猫火車、肩に猫ヶ火を鮮やかな刺繍で表現したこだわりのデザイン。猫と火を組み合わせた化け猫たちが、独特の雰囲気を放っています。
モフモフの毛並みと爬虫類らしさを
刺繍で再現
石黒氏宅で暮らすトゲオアガマ(トカゲ)がモチーフの、謎の生命体“とげおちゃん”。「この毛並みを刺繍で表現したい!と頑張ったところ、石黒さんから“変な仕上がりになっていいな。誰がなんのために作ったんだろうね、という感じがいい”とお褒めいただきました」(花井)。
浮世絵風に描いた猫又親子を
シックにデザイン
浮世絵風タッチの2匹の親猫と5匹の子猫たちをバックプリント。シックなモスグリーンのプルオーバーパーカーは、コーディネートに取り入れやすい一着です。じゃれあう子猫2匹の刺繍を探してみて!
フロントの寅の刺繍に、裏地の十二支総柄がゴージャス
干支のシリーズより。ナイロン素材のコーチジャケットに寅の文字と寅のイラストを刺繍で表現したデザイン。裏地には十二支を組み合わせた総柄。「寅というと定番感があるけど、内側の干支柄がチラ見えしたときにカッコいいよね」(石黒氏)
眺めているだけで癒やされる
「しちごにゃん」ワンピース
絵本『ねこまたごよみ』より猫又の子猫たちの「しちごにゃん」のパターン柄。小さい順に「みい」「みゃあ」「にゃあ」と鳴き方も変えて、猫界の七五三を表現しています。ドロップショルダーのシルエットで、腕周りもゆったり。サイドポケットも付いているので、外出時も便利。
ぜひ手に入れたい!石黒流ガーリーなアイテム
ビッグシルエットのプルオーバーパーカーに、アリスをモチーフにした青いワンピースの女の子と骸骨幽霊が腕相撲をしている、ファニーな一着。バックの裾にはさりげなく時計ウサギを刺繍。
自転車曲芸の猫たちがユーモラスな
ロングブルゾン
これからのシーズンに活躍するフロントジップのロングブルゾン。バックには一台の自転車に9匹の猫が乗る曲芸姿に思わず拍手!バックはアップリケ、胸元は刺繍で表現しました。前を閉めてワンピ感覚で着ても可愛い。
イラストから物語を感じるキッズアイテム
長袖Tシャツは、『石黒亜矢子作品集』の目次から絵を取り出した斬新なパターン。吹き出しにそれぞれ何の文字が書いてあったのか想像してみても。フードパーカーは絵本『こねこのきょうだいかぞえうた おふろ』より。ポケット上から呼びかけるお父さん猫とおもちゃのアヒルを抱えて登っていく子猫の微笑ましい1コマを刺繍で表現。耳付きフードを被って子猫気分に!
撮影/村本祥一<BYTHEWAY> 取材&文/日下淳子